私の住んでいる京都市では「健康寿命の延伸」が重要目標になっています。「健康づくり活動」の推進を図ることを目的として2018年から、良い活動をしている団体に対して市が表彰するようになりました。そして2019年11月、私たち「つるかめ笑顔クラブ」の活動が「健康長寿のまち・京都いきいきアワード2019」を受賞しました。
私が運営している事業、つるかめ笑顔クラブ「思い出語りの会」の活動についてご紹介します。
「思い出語りの会」とは ~認知症の予防につながる~
「思い出語りの会」とは高齢者が昔ばなしをする会合のことで、認知症ケアの手法「グループ回想法」を準用しています。
人と会話することは少しの気遣いや空気を読むなどの知的な刺激が含まれる精神活動です。若い頃の出来事や思い出を語り合うことで互いの刺激となります。
特に、昔の記憶を手繰り寄せることは脳の血流を刺激し記憶の仕組みのうち「想起」の活発化を促すことから、認知症の予防につながると言われています。
思い出語りの会の活動
始めの2か月は参加者が1人、2人でした。しかし、2年余りたった現在では20数名にまで増えました。
参加者は4~5人のグループを編成して、「運動会」とか「こたつ」といった生活につながるテーマについて思い出を語り合います。
会の進行としては、ウォーミングアップ→グループワークのアイスブレイク→本番の思い出語り→おやつタイム→クールダウンという流れがあります。
この基本の流れに、「退屈しないための横糸のプログラム」を編み込みます。例えば、今は「鳥羽伏見の戦いから150年目」にあたる年なので「錦の御旗の行進」で「宮さん宮さんの歌」を歌ったり、西郷隆盛の歌「一かけ二かけて三かけて・・」を歌いながら手遊びをする…などです。
このように「ちょっと知的な刺激」や「ちょっと活動的なこと」を組み込むことで気持ちがほぐれ、和気あいあいとした雰囲気が生まれやすくなります。さらに、参加する人が「思い出しやすい、語りやすい」ような雰囲気づくりのために昔の写真を飾ったりもしています。
2年目の展開
参加者が増えてきたら次の課題は質を落とさない工夫が必要です。
グループワークにはファシリテーターを配置する方式なので、2年目はスタッフ養成を計画しました。3時間の研修のためにテキストを作成し、語ることに伴うリスクの想定などについてレクチャーしました。8名の方が認定を受け、今ファシリテーターとして動いています。
こうしてスタッフも増えたことでさまざまな意見も出るようになり、会で取り上げるテーマやグループワークも豊富になってきました。
令和を迎えたことを記念して、万葉集梅花の巻、即位の礼正殿の儀、高御座と京都御所、大嘗祭では京都の斎田にちなんでお米の意味、そこから酒づくり、灘の杜氏の歌「デカンショ節」を歌ったりもしました。
それから、京都ならではの切り口で「上京区の制定140年目」の節目にちなんだ「町名クイズ」。難読漢字で盛り上がりました。
例えば…慈眼庵町、靭屋町、坤高町、花開院町、筋違橋町…皆さん、読めますか?
また、マンドリン演奏が得意な友人が応援参加して「音楽バージョン~青春時代の思い出の歌」を企画し、楽しいひと時を過ごすことが出来ました。
まだまだ、この他にもいろいろな試みに挑戦しています。
こうしてコツコツと積み重ねてきたことが認められたのか、私たちの活動がリビング京都新聞の紙面いっぱいに掲載されました。さらにはKBS京都ラジオに出演し、笑福亭晃平さんからのインタビューを受けるということもありました。
まちナビに掲載「昔の思い出を語り合って、認知症予防に」
人は話し相手を求めている/人とのふれあい、社会性の維持
年寄りの昔話はまわりから相手にしてもらえず、話をしたい、聴いてもらいたいという欲求は押し込められています。そのため高齢者はしだいに「自分の価値」を認めてもらえない感じを抱き、自信をなくし活気のない存在となっていくのです。
思い出語りの会では、高齢者が集まって「共通の意識で語り合う」ことで互いに通じる何かが醸成され、自然とストレスコーピングの手法を身に付けていきます。これはピアカウンセリングに通じるものがあるといえます。
参加者のアンケートからこの活動が介護予防、居場所づくりに役立っていると読み取れます。厚生労働省が推奨している「通いの場、居場所づくり、仲間づくり」そのものであると自認しています。
「思い出語りの会」の活動意義は高齢者が自分らしく、そして元気を取り戻すことにあります。
人様のためだけではなく私自身の介護予防でもあることを認識し、支えてくれる仲間に感謝しつつ、これからも高齢者一人ひとりの話を大切にする企画を考えていきたいと思います。
2020/8/28 追記
「思い出語りの会」が京都市上京区まちづくり課の「まちづくり活動支援事業」に採択され、交付金を獲得しました。
私たちは、「コロナであってもふれあいを重視する」という方針を立てました。具体策は以下の通りです。
高齢者は難聴傾向があり、滑舌もよくないのでマスクは不向きです。
参加者にはマウスシールド、フェイスシールドを着用してもらい、口元が見えてよく聴きとれるようになることで「ふれあい感」を高めます。
さらに重要なのは、「飛沫防護ブース」です。
参加者各人を透明なブースで囲うという案を考えました。
この防護ブースは、幅は45㎝×2辺、高さ63㎝(写真を参照)、対面してグループワークをする目的で作成しました。
持ち運びも可能です。現在、仲間と一緒に参加者20名分の用具を製作しています。
2020年9月15日、第1回目のテーマは「音楽と思い出語り」です。
ギターの伴奏があるのですが、大きな声で歌うことができないため「口を大きく開けて小さな声で口ずさむ」こととします。
今回はスクール型に着座して各人が発表をする方式で、次回からグループワークを取り入れる予定です。
区役所(健康増進課=保健師さん)にも相談でき、関係のある団体とも「困りごと」の情報交換をしながら取り組むことができるため、気分的にとても安定していられます。
コロナ自粛のせいか、少々筋力低下を感じていたところ、たまたま友人から誘いを受け「京都御所でのラジオ体操」へ行くようになりました。
朝5時50分に間に合うよう、ウォーキング15分×往復、全部で1時間弱の運動量(3000~4000歩)、時々遠回りウォーキングを追加しています。
ウィズコロナによって生活リズムの見直しです。
改めて仲間がいることに感謝しています。
式 惠美子(しき えみこ)
「介護予防概論」担当講師
京都第二赤十字看護専門学校 講師
博士(医療福祉学)、看護師、社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター、認知症ケア専門士。《記憶力アップ フレイル予防 仲間づくり》をコンセプトに掲げて活動中。著書「退院支援から在宅ケアへ」その他TV出演など。看護・介護・教育に携わって60年。NPO法人 日本介護予防協会 理事、日本高齢者ケア協会 会長として活動中。
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