介護予防指導士講習修了生や介護予防事業に興味のある方から、このようなご相談を受けることがあります。
「介護予防指導士の資格を取得したけど、どうやって活用したらいいですか?」
「講習で学んだことを実践したけど、単発で終わってしまって…」
「通いの場の事業を始めたいけど、どう企画すればいいかわからないんです」
…など。
高齢者の「通いの場」が注目されている今、介護予防に携わる者として私たちは何をすればよいのでしょうか。
ここでは、私が介護予防指導士の資格を取得するに至った経緯、その後、実践した取り組みについてお伝えします。
1.介護予防指導士の資格を取得する
介護予防制度がスタートした頃、私は養護老人ホームに支援員として従事していました。一職員として、自分の趣味である「運動」の知識を活かし、行事の企画や運動メニューの作成に取り組んでいました。
このような活動を重ねていくうち、しだいに「専門職として介護予防に関わりたい」という思いが湧いてきました。
そこでネットで検索したところ、『介護予防指導士講習』を見つけたのです。早速、施設長に相談し、受講することになりました。
当時はまだあまり知られていない資格だったため、先輩職員や同僚からは「それ、役に立つの?」「3日間も休んで…」とマイナスイメージを持たれましたが、私は「絶対に役立つから受講してくる!!」と周りを説得しました。
講習修了後、施設長に研修報告書を提出し、介護予防制度に基づいて、まず初めに【介護予防体操教室チーム】を作ることを提案(嘆願)しました。
2.法人内で基盤をつくる
まず初めに行なったことは企画書の作成です。
そして、会社と仲間に理解してもらうために説明会を開きました。
どのような取り組みなのかを理解してもらえたら、次は施設長が中心となり、法人理念に沿った介護予防のプランを明確化することに取り掛かりました。そして、そのプランに基づいて、具体的な企画を立てることになりました。
企画を実行する上での「責任者(=私)」は、取り組みの立案、運営、評価などの実務を担います。ここで大切なのは、責任者一人で進めるのではなく、「取り組み担当(=協力者)」を募り、チームで推進出来る体制をつくることです。
その上で責任者は、「法人代表(=施設長など)」「取り組み担当」「一人ひとりの職員」から理解を得て、連携を図り、企画を進めていくのです。
私の場合は、まず施設長にチームを作ることを提案しました。無事に了承を得ることができ、同じ部署の看護師2名を協力者として迎えることになりました。
看護師の2人には、企画した「介護予防体操教室」の詳細を説明し、教室開催前後のバイタルチェックや健康状態チェックなどを担当してもらうよう依頼しました。
3.PDCAサイクルで実践する
企画を進める際に職員、利用者に理解してもらうためには、どのような行動をすればいいのでしょう。こうした悩みの解決に必要となるのが、目標設定とそれに沿った【PDCAサイクル】による展開です。
PDCAサイクルとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことです。
計画が単に実行できれば終わり、ではありません。
PDCAサイクルで重要なのは実行した後、成功・失敗問わず、必ず評価を行ない、改善すべき点を見つめ直し、次に繋げていかなければなりません。
そして、それを何回も繰り返すことで質の高い取り組みを実施できるようになります。
その結果、失敗を繰り返さない方法を身に着けることもできるようになります。
チーム内では「利用者の変化」「スムーズな運営」「プログラム内容の充実」、法人代表はじめ職員は利用者の「自立度アップ」「表情の変化」を感じることが出来ます。
このように、企画を成功させるにはチーム、施設全体それぞれでPDCAサイクルに取り組むことが必要だといえます
4.利用者・職員が参加できる場をつくる
責任者は、企画した内容を職員に分かりやすく説明することが大切です。いまここで必要なことはコレ!!という内容を提案しましょう。
そして、利用者と職員が一緒に楽しめることが企画を成功させるための「決め手」になります。
職員同士が介護予防の必要性に気付き、それぞれが新しい視点を獲得したり、取り組みに向けた仕組みづくりに参画したりできる風通しのよい職場環境が必要です。
どれだけ法人内に立派な人財育成の仕組みがあっても外部、内部研修を一方的に実施するだけでは十分な取り組みはできません。
職場の中で介護予防について語る場があり、職員に「PDCAサイクル」の重要性を説き、実践を促すことで、「介護予防の取り組みに協力的な職場」になっていくのではないかと思います。
利用者に介護予防事業を行なう際は、法人代表(=施設長など)と職員が「介護予防は大切だ」という共通認識を持ったうえで、利用者に接することが重要です。
私たちの願いをカタチにして発信することが、利用者に介護予防を伝える第一歩です。
しかし、すぐに結果が出るものではありません。忙しい日常業務の中でPDCAサイクルを実施することになりますので、相応の労力と時間が必要です。
前に進むのが難しいと感じた時は一度立ち止まって、PDCAサイクルを見直し、問題点や改善点を見つけてみましょう。そして、ひとりで抱えるのではなく、法人代表(施設長など)や周りの職員(仲間)に声をかけてみましょう。
介護予防事業は一人で行なうものではありません。周りにいるすべての人が関わり、楽しむことで発展していくのです。
まとめ
・責任者が筆頭となり、問題を見出し、希望をカタチにしていくことが前に進むためには必要です。
・まずは「私は介護予防指導士としてこういう取り組みをしたい!」「私はこういう活動を始めたい!!」と法人代表、周りの職員(仲間)へ意思表示をしましょう。
大野 孝徳(おおの たかのり)
「救急蘇生」「認知症ケア」担当講師
A-assist 代表、岐阜市レクリエーション協会 理事、株式会社Kind 顧問
日本介護予防協会 中部ブロック長、ロコモ認知症予防療法協会 SPアドバイザー
2000年より介護業界に入職。法人や現場を変わりながら様々な経験を積み、介護士・相談員・管理職を経験。
2016年にA-assistを設立し、自身の経験を活かした人財育成に力を注ぎ始める。
現在、「福祉人材の総合能力向上」に力を入れており、日本福祉アカデミー岐阜校、岐阜県立岐阜清流高等特別支援学校 福祉コースの教壇に立つ傍ら、「快互コンシェルジュ」として介護現場での技術指導や内部研修講師、地域・施設での介護予防体操教室、市民向けセミナーなどを開催している。