ボランティアが語った「これが私の介護予防」
介護予防は、平成18年(2006年)の介護保険制度改正において国の制度として位置づけられ、平成27年(2015年)、総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)として生まれ変わりました。
地域の人的資源、社会資源等を活用し、介護事業所だけでなくNPO・ボランティア団体、民間企業、協同組合、地域住民によるサービス提供も可能になったのも記憶に新しいですね。
私は、地域で暮らす前期高齢者向けの「生活介護支援サポーター養成講座」において、ボランティアさんと何度か話す機会がありましたが、「ボランティアをすることは他人のためというより、自分のため」とおっしゃる方が多かったことに驚きました。
有志で集まりコミュニケーションを取り、企画、運営をする。役割を持ち、責任を持って仕事をする。身体と頭を動かし、実行し、終わればフィードバックを行ない、他人からも評価される。「ありがとう」と言われる喜び。「助かったわ、またお願いね」と頼られる幸せ。何かをやり遂げる充実感。
「役割を持つこと任されることが自分を活かす」そんな言葉をボランティアさんから聞くうちに、「これこそ私が目指すレクリエーションの神髄だ」と思ったものです。
前期高齢者が目指す「きょういく、きょうよう」
まさに「教育、教養」ではなく、「『今日行く』ところ」「『今日、用』がある」であり、それこそが生き甲斐作り、健康作り「介護予防」に役立つのだ、と思ったのです。
認知症予防に向けた取り組み
昨今、認知症者の爆発的増加が懸念される中、国から「70代の認知症の人の割合を2025年までの6年間で6%減らす」といった初の数値目標が掲げられました(後日、数値目標は参考数値に変更)。
認知症予防に向けた主な施策として、運動不足解消や社会参加につながる「通いの場」の拡充、予防の取り組み事例集やガイドラインの作成、認知機能の低下を抑える機器・サービスの評価手法づくりなど具体的な方針を決定しています。
まさに「運動や社会参加など外に出てアクティブに生きる」ことが介護予防、認知症予防につながることなのですね。
介護予防
また介護予防は「要介護の人」にも「これ以上介護状態が悪化しないよう」「認知症の進行を遅らせるよう」取り組むことが求められます。それは、重介護化を予防すると同時に「利用者の健康をまもり、生活の質を向上させることに有効だからです。
介護レクリエーションの一例
現在、高齢者施設やデイサービスでは、ご利用者の生活を豊かにするためにレクリエーションの時間を設けているところが多いです。
デイサービスを一例にすると、午前中、入浴の待ち時間にぬり絵や縫い物、編み物などの個別趣味活動、昼食後2時ごろから集団でボールゲームなどを毎日のアクティビティとして取り入れているところが多いようです。
季節行事や年中行事をみんなでお祝いしたり、外出や遠足、外食などさまざまな非日常を楽しむプログラムを組んでいるところもあります。
レクリエーションは日常生活の中に溶け込み、ご利用者の生活を彩っているようです。
リハビリテーションのように加算が取れなくても、各施設が「レクリエーションの時間」を重要視しているのは何故でしょう。それは次のような理由が考えられると思います。
介護レクリエーションの役割と可能性
➀「笑顔」を引き出す、コミュニケーションで孤独感を解消する
笑顔を引き出す事が出来ます。「笑いヨガ」で代表されるように「笑うこと」が身体にいいのはもはや常識です。血流をよくする、免疫力を上げる、うつ予防になる、等、数々の効能があります。
介護現場のレクにおいては、みんなと一緒で嬉しい、(ゲーム等で)勝って楽しい、負けて悔しい、のように感情(素の自分)が引き出せます。
目の前の人が笑うとつられて笑ってしまうことがありますよね。集団レクリエーションの時間には思わぬ「ハプニング」が起こります。
例えばボールが落ちただけのような他愛もないことでどっと笑いが起こります。ハプニングが笑いを運んでくる、それが「レクリエーション」です。
笑顔を交えながらコミュニケーションを取ることにより人間関係を円満にし、友達を作ることが出来ます。相手の興味や関心を知りやがて互いに励まし合い愚痴を言い合える仲間になっていきます。施設に慣れず孤独感を抱えている利用者にとっては新しい生活になじむ良いチャンスです。
➁身体を動かすことが出来ます
知らず知らず身体を動かしている環境が作れます。
身体を動かすことで得られる効果
・身体を動かすことで血流がよくなる
・筋力低下を防ぐ
・技能習得や目標達成による高揚感が生まれる
・前頭葉が活性化する
・生活習慣病などの病気を防ぐ
・生活にメリハリを作る
・過度な疲労感が生まれ安眠効果になる
・食欲を増進する
・ストレス発散、精神の安定、うつ予防に繋がる
自分の足で歩く
また「歩くこと」で病気をよせつけない、と言われますが、介護現場では多職種が一丸となってご利用者の自立歩行を目指します。車いすでの移動よりも、自分の身体を自分の好きなところに運べる、「自立歩行」では世界の広がりが全く異なります。「自分の足で歩きたい」を全力でまもるよう努めています。
➂認知機能維持向上
・脳を動かし活性化
・レクでクイズなどを行なってもテストや勉強と違って間違っても笑い飛ばせる
・つらいリハビリや訓練と違い、楽しく身体を動かせる
・わかっていた、おぼえていたと自己肯定感が生まれる
そしてもっと頭を使わなくちゃ、身体を動かさなくちゃと生活を見直すことが出来ます。人とコミュニケーションを取ることで社会生活の自立にむすびつけることはとても重要なことです。
認知症のある人でも「昔繰り返し覚えたことがら」に強い人がいるので「わかること」を聴き、「出来ることを行なう」ことで安心してレクにご参加いただけます。
おしゃべりは「言葉を思い出し、言葉を組み立て、相手や自分が言った事を一時的に記憶し、会話の繋がりを保つ、どう言ったら相手が喜ぶかなど考えながらおこなう」ので、脳を活性化します。私はレクでどんどんご利用者から「言葉」を引き出すようにしています。
⓸役割を作り、意欲を引き出します
人から認められる、評価される(承認の欲求を満たす)自分にでも出来たという自己肯定感、またやってみたいという継続意欲を引き出します。
また継続的におこなう製作活動など自分の趣味を続けられることはその人の「生き甲斐づくり」にも一役買いますよね。私は、職場のご利用者に雑巾を塗っていただき、それを必要としている人に使っていただいていますが、これも「人から感謝されるレクリエーション」になっています。
以上の4点を挙げてみると、介護レクの役割とは、まさにボランティアさんが言っていた「身体を動かし、脳を動かし、役割を持ち、人から認められること、感謝されること」がとても重要で、ここに「生活の自立を目指す」要素が加わっているのだと思います。
まとめ
「ボランティアは他人のためというより自分のため」「自分の介護予防になっている」と言っていたボランティアの思いは要介護の人たちにも当てはまるのです。無理は禁物ですし、自分が楽しめることを続けていくことが重要です。介護予防とレクリエーションの目指すところは非常に近いのだと思います。
尾渡 順子(おわたり じゅんこ)
医療法人中村会 介護老人保健施設あさひな、認知症介護レクリエーション実践研究会
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を保持。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2018年4月より現職。2014年、アメリカオレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにてアクティビティディレクター資格取得。
みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション(ナツメ社、2014)「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖(翔泳社、2014)「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション(日総研出版、2018)「もう悩まない!介護レク入門」(BABジャパン、2018)他、多数。