少子高齢社会にあっては労働力の減少、医療費などの社会保障、その他多くの課題が浮上しています。このような社会状況のなかで国が推進しようとしている「介護予防」の施策、その中でも総合事業について書いていきます。
高齢社会のための重要な法律
2014年6月、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保推進法)」が制定されました。
この法律は、高齢化が進行するなかで「医療と介護の提供体制」「税制支援制度の確立」「地域包括ケアシステムの構築」など社会保障制度を維持していくための基本となるものです。
そこには《高齢者の課題は地域で取り組み、解決を図る》という高齢社会における方針が示されています。
法律というと難しいようですが、この法律に含まれる【地域包括ケアシステムと総合事業】は私たちに大きな影響を及ぼしますので、これについて確認しましょう。
地域包括ケアシステムとは
前述の法律を基盤として、市町村には「地域包括ケアシステム」をつくるという課題ができました。具体的には市区町村が、住まい・医療・介護・生活支援を一体的に整備することです。高齢者が地域で様々な支援を受け、最期まで自分らしい暮らしを続けることを想定しています。
図1 地域包括ケアシステム
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
高齢者の日常生活を支援する「総合事業」
高齢になっても一人暮らしになっても地域で暮らしていくには、医療や介護の整備はもちろんのこと、「日常生活の支援」が重要となります。それを担うのが「生活支援・介護予防総合事業」です。「総合事業」と略称されることが多いです。
市区町村は、老人クラブ・自治会・ボランティア・NPOなどの活動によって高齢者の日常生活を支援する介護サービスなどの充実を図ります。
さらに、地域住民主導による介護予防の仕組みづくりを整え、それによって住民の虚弱化の防止と社会参加を促すことを目指します。(図2)
図2 生活支援・介護予防サービスの充実と高齢者の社会参加
誰がどんなサービスを受けられるのか?
介護保険の居宅サービスは「介護給付」「予防給付」、「総合事業」の3つに分かれています。
誰がどんなサービスを受けることのできるのか、見てみましょう。(図3)
図3 介護保険サービスの区分け
一般の方が参加するのが「一般介護予防事業」のサービスです。65歳以上の方(介護認定の被該当者も)は誰でも自主的に参加が可能です。内容は、エクササイズ、転倒予防、栄養ケア、口腔ケアが主となっています。
要支援1・2の方が受けることのできるサービスは、「予防給付」の訪問看護、通所リハビリや地域密着型サービスの小規模多機能型サービスです。
また、一般介護予防事業にも参加可能で「総合事業」のサービスも受けられます。市区町村が実施している転倒予防教室やエクササイズなどが該当します。
社会参加で「生活支援の担い手」に
図2に戻りますと、この図には生活支援・介護予防サービスの他に「高齢者の社会参加」が示されています。市区町村が主体となって、高齢者が持てる能力を発揮する場面づくりを整備しようとしています。
高齢者自身が取り組む自助努力が中心ですが、同時に高齢者が高齢者を支援する、互助の仕組みづくりが進められています。
内容的には「他の人の役に立ち、人と人の触れ合いがあり、本人の介護予防に役立つような役割の創出」が求められます。
例として、個人的活動では社協の弁当配食の協力、ごみゼロ作戦の活動など高齢者が社会貢献にチャレンジしている事例があげられます。
図4 通いの場と生活支援,地域ケア会議の連携 (出典:厚生労働省の図より改変)
「介護予防」は起業のチャンス
団塊の世代の方は、現在60歳代後半から70歳にさしかかっています。市区町村ではこれらの方たちが単に介護予防事業に参加するだけでなく、事業を起こしてほしいと期待しています。週に1回以上、住民主体の活動を創出する、行政は黒子として支援する、市区町村では補助金を出して推奨しています。
ボランティア活動あり、有償の方式など住民のアイデアでさまざまな取り組みが実施されています。少し元気な高齢者にとって、今は活動を創出する「起業」のチャンスといえます。
仲間を募って「介護予防」に向けて事業を展開することが生きがいとなります。わずかでもいいからいくらかの報酬があればもっと楽しくなりますね。
人様の介護予防に貢献する仕事が、実は自分自身の介護予防となっています。「人のため・自分のため」に行なう良い循環が良い成果を生み出していきます。
「介護予防事業」は競争の時代
現在、介護予防関連の事業を展開している事業所にとっては「質の競争」の時代を迎えています。高齢者の関心についてリサーチし、飽きのこないプログラム作りや継続性の課題に挑戦するときです。一つひとつのプログラムが意味するものをきちんと把握し、伝える必要があります。
「介護予防」「フレイル予防」の位置づけを伝えて,高齢者自身が目標を持てるようなサポートの仕方を工夫しましょう。介護予防事業はマンネリから脱却し、成果の検証を求める時期に来ています。
まとめ
介護予防において、運動・栄養などの身体的な要素は重要性を認識しやすいのですが、さらに重要な要素は「活動・参加」です。「活動・参加」には「人との交流」を伴います。「介護予防」「フレイル予防」では特にこの部分が注目されているのです。
式 惠美子(しき えみこ)
「介護予防概論」担当講師
京都第二赤十字看護専門学校 講師
博士(医療福祉学)、看護師、社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター、認知症ケア専門士。《記憶力アップ フレイル予防 仲間づくり》をコンセプトに掲げて活動中。著書「退院支援から在宅ケアへ」その他TV出演など。看護・介護・教育に携わって60年。NPO法人 日本介護予防協会 理事、日本高齢者ケア協会 会長として活動中。